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【レポート】「これからの教育を探究する」高大連携オンライン研究会

POINT

2022年4月、「総合的な探究の時間」などの新科目を含む高等学校での新学習指導要領が施行されます。

「社会に開かれた教育課程」という大きな方向性の原点を確認し、高等学校や大学の現場での教育事例から知恵を見出すため、2022年3月1日、高大連携オンライン研究会2022春(主催:桜美林大学)が開催されました。

本記事では、多くの教育関係者の方にご参加いただいた研究会の内容をお伝えします。

01.

まずはじめに、文部科学副大臣および大臣補佐官として今回の学習指導要領の改訂に携わった鈴木寛先生(東京大学・慶應義塾大学教授)が基調講演で登壇。高等学校について「相当に大幅な学習指導要領の改訂になった」と話す鈴木先生。その背景には一体何があるのでしょうか。

日本の15歳の学力は世界トップクラス。その一方で、大学教育の段階では「チームを組んで特定の課題に取り組む経験、実社会とのつながりを意識した教育」に企業側が不満を持っているとのデータがあり、社会ニーズに対応できていないと鈴木先生は指摘します。

このような状況から、高等学校では「総合的な探究の時間」などの新科目が生まれることになりました。

同時に指導要領を変えるだけではなく、大学入試の改革も行われています。思考力・判断力・表現力を問う大学入学共通テストが実施されたことで、「学校間で差が出ている。深い学びをしていた学校は点が上がったが、上辺の受験テクニックだけの学校は問題があった」と話します。

教育改革は、これからの時代が「激動の時代」であることも関係しています。

・物質文明、GDP至上主義から「ウェルビーイング」への価値観の転換
・人工知能が人間の知能を上回る「シンギュラリティ」
「VUCA」=不安定で複雑、未知の状況が常に起こり続ける世界に

このような時代に対して、「学び」によって、パニックに陥らずに対処を考える力を身につけなければいけないと鈴木先生は語ります。「これまでの知識偏重のマニュアル的な仕事=マークシートで測られるような仕事はAIに置き換わる」といい、アクティブラーニング(主体的で対話的な深い学び)の重要性を強調します。

最後に、これからの学校教育の在り方として、良い教授(レクチャー)を目指すのではなく、1on1による主体的な学習・学び合いの支援の重視を示しました。「社会に出ると『先生』はいない。未知と遭遇しながら生涯学び続ける人が求められている」。

質疑応答では、参加した先生から「社会の変化を伝えようとすると説教じみてしまい、生徒の内発的な動機づけが難しい」との質問が。鈴木先生は「知らないことや不安は、生徒に共有していい。それが生徒自身の自己肯定感(成功体験)につながる。でも、先生は未知と遭遇した時にビビらない。『学び方』を知っている姿を見せてあげては」とアドバイスしました。

鈴木 寛 先生
1964年生まれ。東京大学教授、慶應義塾大学教授、社会創発塾塾長。Teach for All Global Board Member、元・文部科学副大臣、前・文部科学大臣補佐官、日本サッカー協会理事など。

02.

続いては、現場からの実践の報告です。

まずは八王子実践・吉田麻美先生。特進コースの探究学習「J-CLAP」を担当します。

探究学習をスタートした1年目は、教員も生徒もともに「創りながら学ぶ」を大切にしたと言い、「肯定」と「教員もわからないを隠さない」を意識したそう。

そんな中から、全国高校生マイプロジェクトアワード全国ファイナリストに選出されたAED設置のプロジェクトも生まれました。(「地元に400台のAEDを設置。信念を貫き通したら、人生が変わったある高校生の話」KATARIBA Magazine )

吉田 麻美 先生
八王子実践高等学校・八王子実践中学校 進路指導部・進学指導主任。特進コースの探究学習「J-CLAP」担当として、外部講師と連携した探究学習をデザイン。「好き・興味関心×学問=社会の幸福」を理念として、テーマ設定から自由に生徒がプロジェクトを進める。

2人目は神田女学園・池田幸代先生です。

アクティブラーニングの取り組みとして、探究型授業だけでなく他の授業でも同じようにグループワークやペアワークを取り入れたといい、「教員は『教えない』ことを学校全体で意識した」と話します。

普段の授業では寝ていた生徒に探究型授業で「好きなことやっていいよ」と伝えると、目を輝かせ前のめりになったそう。

池田 幸代 先生
神田女学園中学校高等学校 教務企画室室長。東京農業大学卒業後、教職に(理科)。2014年、自校独自「探究型学びプログラム」のプロジェクトを立ち上げ。2018年からの探究型授業「ニコル(NCL)プロジェクト」は、中1〜高2の全クラスが毎週実施しており、全国的に珍しい。

03.

さらに、新しい教育の方向性を受けた大学側の取り組みが桜美林大学・山崎慎一先生より紹介されました。

桜美林大学では新学群として「教育探究科学群」を2023年4月に開設予定。

これからの社会に開かれた教育の実現のためには、学校教育を理解した上で「外」から学校教育に関わる者、ヒト・コト・アイデアを繋げられる者など、さまざまなプレーヤーが求められるとの考えから、新学群が構想されています。

教育探究科学群における「探究」は、「先ほど出た『教えない』という考えと同じで、学生本人の好奇心を大事にしていく。役立つ人材ではなく本人が『役立ちたい』と思えるアプローチをしていこうと思っている」と語ります。

山崎 慎一 先生
桜美林大学 教育探究科学群 設置準備室。桜美林大学経営政策学部(現BM学群)、同大学院大学アドミニストレーション専攻修士課程及び国際学研究科博士課程修了。博士(学術)。桜美林大学高等教育研究所研究員の後、国連アカデミックインパクトのプロジェクトである学生団体ASPIREのコーディネーターを務め、現在はグローバル・コミュニケーション学群准教授。

04.

最後のパネルディスカッションでも探究学習についてのヒントが多く語られました。

「社会が複雑化している中で、大学の4年間では学びが完結しない。10年くらい腰を据えて取り組む問題意識を先行して高校で持てるといい」と鈴木先生。「これからの組織のリーダーには教育学部出身の人がなるだろうと思う。学びは一生続くので、いかに人々の成長をサポートできるかが重要になる」。

参加した先生の質問から「教えない教育」についての議論も広がりました。

神田女学園・池田先生は、授業では導入部分でワークシートを個人で考える時間を取り、できる生徒は自分でどんどん進め、できない生徒には1対1でサポート。時間を区切って、全体に向かってのポイント解説を行うと言います。

「教えない教育」を行う場合の消極的な生徒への対応についての質問に、八王子実践・吉田先生は「1on1で試行錯誤して対話していくしかない。問いの入り口の探し方だけ、背中を押すような形で話している」と話します。

神田女学園・池田先生は「生徒は真面目。こんなことを言うとバカにされるという思いが根深いので、それ面白いねと言うだけで、生徒は変わる」とアドバイスしました。

その後も予定時間を超えて質問が続々と届き、熱い議論が交わされました。

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