2022年度から、「探究」が全国の高校の科目として全面的に位置づけられます。より良い「探究」を育むため、高校の先生方や関係者を対象に、「生徒の探究を育む教員像」をテーマにオンライン研究会が行われました。
【お話いただいた先生方の紹介】
酒井淳平先生(立命館宇治中学校・高等学校キャリア教育部長 数学科教諭)
浅野 恭子 先生(東京都立松が谷高等学校 )
鈴木 崇紀 先生(神奈川県立相模原中等教育学校 )
うまく授業を回すために必要なのは「チーム作り」かもしれない。けれど本質はそこではないのではないかと考えます。新しいことを始めるときに、みんなが同じ考えで前向きに進むことはない。
だから、自分の覚悟や志の共有からスタートしたらいいのではないか。
「探究」をすることで、生徒を「お客様」から「生産者」に。
与えもらって受け身に取り組む姿勢から、自ら価値を生み出す生産者に育てていきます。
教員に実際聞いてみると、生徒はすごく真面目で素直。しかし、どの生徒も受け身の姿勢があるということを共通して言っていたのです。そんな真面目で素直な生徒に今大事なのは、より多くのタスクを与えるのではなく、根っこになる「マインド」や「スキル」を育てること。それができるのは総合的な探究の時間だろうという思いからスタートしました。
ーー実践した探究のコンテンツと教員間の共有方法ーー
実施した探究のコンテンツは、教員が自分の担当教科を学ぶ意味を教員自らが順番にプレゼンしていくという内容です。聞き手の生徒には、グループ、個人で問いを立ててもらい、質疑応答をしながら話していくという進め方をしました。
教員会議を活用し、このプレゼンの事前共有を行いました。
こうすることで教員自身の練習になるし、他教科の見方について知るいい機会になり、刺激にもなりました。
授業の狙いとして、生徒の問いを立てる練習や、学ぶ意味を考えることもありましたが、裏の狙いでもあった、教員が他教科の魅力・見方を知ったり、教員みんなで授業を作り上げるという気付きを得ることもできました。
ーーコロナ禍での生徒の探究テーマと若手教員の変化ーー
この授業を実施したことによって、コロナ禍で学校が休みの間に、ランニングを毎日20分続けた人、出汁や香味野菜から自分でラーメンのタレを作ってみた人、ガウンを50着作って病院に寄付した人など、生徒が個人でいろんなことに取り組んでいる様子が見られました。
探究のカリキュラムを4年間行い、将来の見通しがあって行動すべきことがわかっている生徒の割合はグッと伸びていました。
ある若手教員にも変化がありました。
「探究をやりたくない。カリキュラムに存在している意味がわからない。逃げたい。就職間違えた・・・。」こんなことを白状してくれた教員がいました。こんな教員ですが、一年経つと、「探究って難しいけれど、生徒にとっても教員にとってもやってみる価値がある。頑張ってみようかな・・・。」こんなことを思うようになったと。
この教員は授業観も変わっていました。
探究に関わるまで、授業は「与えられた問いに対して答えが出せるようになること」だと思っていたけど、探究に関わったあとは「視野を育て、現代を見つめる切り口を育てること」と思っていると話しました。
探究は、未来を生きていく私たちに必要です。
探究の授業を進めていくその過程にこそ学びがあり、授業を通して学び合う集団になる。探究が果たす役割はとても大きいと私は思います。
私は探究を担当するにあたって、「探究を自分事化」する教員を増やしたいと思っていました。
職員会議で探究の授業づくりに協力してくれる先生を募ったところ、担任は8人しかいなかったのに進路指導の先生方も含めた13人の先生方が声をあげて下さいました。
初めての試みでしたが思いの外思いのほか授業自体は盛り上がりました。
一方で課題点もいくつか挙げられました。探究のテーマが調査をしなくても分かるようなものである、調査や発表のスキルが未熟、インターネットで調べた事だけで自分の考えや意見が述べられていない、などです。
翌年私は探究の担当ではなくなりましたが、受験をする生徒の志望理由書を見て、大学で具体的にこんな事をやりたいな、という意欲付けや方向づけに、探究がとても役に立っているということに気づきました。
翌年にまた探究の担当になりました。
この時もまた「探究を自分事化してくれる仲間を作ろう」と思い、自ら探究をしたテーマについて生徒の前でプレゼンをしてくれる先生を募りました。
先生方も忙しい中で、昼休みに感想や反省を言い合ったりしながら、担任談として「探究とは何か?」ということを体験しながら学ぶことが出来ました。
この年度で2年前の課題点はどうなったかというと、調査や発表のスキル自体は探究について書かれた参考冊子のおかげで改善されましたが、その他についてはまだ改善ができていませんでした。
ーー生徒に探究についてのアンケートを実施ーー
ここで生徒に、「探究が好きか?」というアンケートを取ってみました。
残念なことに半数以上が「どちらかと言うと嫌いだ」と回答しました。
「嫌い」と答えた生徒で1番多かった理由が、「人前で話すことが苦手で精神的に苦痛」というものでした。他にも「面倒くさい」「テーマ(を設定する事)が大変」このような事が挙げられました。
対して、「好き」と答えた生徒は、「グループワークが楽しい」「自分の興味あることについて深く学べる」「授業より楽だ」などが理由です。
もう1問、「探究は自分の将来に役立つと思うか?」という質問しました。
これについては驚いたことに、9割以上の生徒が「どちらかと言うと役に立つ」と回答しました。
「面接や志望理由書などで順序だてて説明できる」「興味があることを調べれば将来やりたいことを見つけられる」「自分で調べることで知識が身につく」ということを理由としてあげてくれていました。
ーー探究を自分事化する事で起きる変化ーー
以上の課題点を踏まえ、「学校外の体験を増やして探究活動をもっと楽しんで欲しいな」と思い、ディスカバプログラムにこの夏参加させて頂きました。
提供して頂いたワークシートは「先生の方で変更したことがあればしていいですよ」と言ってもらっていたので、探究に関わったことのある教員はワークシートの変更をしたり、探究テーマを自分で設定したりするという姿が見られるようになりました。
教員たちが探究活動に携わることは、自分の分野を活かして生徒に火をつけることが出来るんだなと学びました。
探究に取り組むにあたり、探究活動を自分事化するという思いでここまでやってきましたが、自分事化する教員仲間が増えれば増えるほど伝染し、生徒たちも探究を自分事化できるようになっていきました。
今後も、探究は大変だけど必要だ!と、自分事化できる教員を増やしていくことを目標に頑張っていきます。
ーー独自プログラム かながわ次世代教養ーー
私はこの学校に勤めて8年目になる理科の教員です。本校は中高一貫校で、「かながわ次世代教養」という独自のカリキュラムがあります。
まずはこのカリキュラムについて説明します。
中学では、理科の授業と、週一回の総合的な学習の時間で行います。発表の方法と実践、特に3年生では探究のやり方や流れを習得していき、中学校3年間の間に、チームで取り組んだり発表することに慣れてもらいます。
高校では、1年生で「探究とは何か」を学び、各自でテーマ設定をします。中学では理科のことをやるのですが、ここからはテーマを制限せず自由に選ばせました。
2年生でそのテーマについて調査をし、論文を作成。3年生ではパワーポイント等を使った発表を行うというものです。
中学3年生の探究では理科の授業内容として「地球環境」をテーマにします。身近なものから地球環境を学び、自ら課題設定をしてそれらを解決して行く、というものです。グループで大テーマを設定し、そこから個人で小テーマを決めて実験や観察を行い、その記録をメンバー内に相談したり、教員への中間報告をします。その後また追実験をし、最後に発表をしてもらう流れです。
ーー探究する生徒と話す上で大事にしていることーー
生徒の実験ノートを借りてきました。
この班は「よく飛ぶ竹とんぼ」をテーマに「市販の竹とんぼを越えよう」と実験していました。竹とんぼの素材に着目した生徒との報告会をしました。
その時の会話はこんな感じです。
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生徒「硬く、重く、厚くするために、工作用紙と紙粘土を使って実験しました。」
教員「面白いね!実物や写真はある?」
生徒「これです。思ったよりも紙粘土を薄く出来なくて…」
教員「なんか、パンの耳くらい太いね。(これじゃ飛ばないなぁ)結果はどう?」
生徒「あまり飛びませんでした。むしろ工作用紙だけのほうは飛びました。」
教員「その結果をなぜだと考えたの?」
生徒「やはり羽が厚すぎたり、重すぎたのかなと思います。実験結果から硬さは必要だとおもうのですが、どうやって厚く重くしようかと悩んでいます。」
教員「別の素材を貼り付けるのは難しいかもしれないね…他の手はないかな?」
生徒「じゃあ、工作用紙を重ねてみようと思います。2枚3枚重ねて、いくつかやってみようと思います!」
教員「頑張ってね!また結果を教えてね!」
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この会話で私が大事にしていたことがあり、別の素材を貼り付けるのは難しいから重ねるという事を考えてはいました。でも、生徒に答えを教えることになるので問いかける形で聞いていました。
中間報告の狙いは、個人実験で不十分なところやこれからの実験に向けてのアイデアなど、大人目線でのアドバイスをすることです。
ここでもう1つ大事にしていることは、「面白いね!」と共感することと、「すごい!頑張ってるね!」と認めることで生徒のモチベーションを後押ししています。
ーー探究活動の課題感と取り組みーー
本校の探究活動でうまくいってないことがあります。
まず、生徒同士や教員間での会話で生徒を上手く持っていけないことが多いことです。答えをできるだけ言わないようにするとあらぬ方向に進んでしまったり、生徒同士が揉めてしまったりしています。
もう1つ上手くいっていないことは、授業が週1回しかないため授業外の活動が増えたり、実験の費用や場所は生徒負担なので、どうしても上手く進めることの出来ない生徒をサポートし切れていないところがあります。
それに対して、本校が取り組んでいることを紹介します。
1つ目は外部の講師や教材を取り入れ、頼れるものを積極的に活用していくことです。ディスカバプログラムに参加したり、卒業生を招いたり、探究の教科書を取り入れたりしています。
2つ目は校外授業を通して専門的な施設に行き、学校ではできないことをどんどん体験してもらうことです。浄水場に行って水を貰ってきたり、日本学校の外国人と交流したりしました。
3つ目が、すごく難しいことだなと感じていますが、教員間の共通理解を深めていくことをしています。ディスカバ方々の力をお借りして、教員向けの講習会をすることで「探究はこうやってやっていけばいいんだ」と教員の探究に対するハードルを下げることが出来ました。
ーー生徒の探究を育む教員像とは?ーー
最後に僕が大事にしていることにはなりますが、「生徒の探究を育む教員像とは?」という話をします。
まず、一人一人と対話をすることです。会話のラリーをして行くうちに思考を深くさせて、次へのアイデアやヒントになったり、「面白い」などの共感により生徒の次への原動力になるのかなと思っています。
それと、専門外のことでも「素人目線」でいいので質問や対話をしてみることです。意外と素人の方が「共に進んでいける」と感じるし、共感もしやすく会話が弾んで面白いと感じます。
どうせやるなら生徒も探究を楽しめるようになってもらいたいので、教員も一緒に知ることが出来るワクワクを楽しみたいと思っています。
「ひとりの大人」として、雑談するという感覚に近いかもしれませんが、色んなことを生徒と話すことが大事なのかなと思います。